第一章

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         /5  思わぬところで時間を食ってしまった。  行動に後悔はないが、実際問題として、残り時間は着実に減っている。  先程から中井が出した謎の道具『サンタサマミツカール君2号』とやらを使ってサンタクロースを探しているが、相変わらずの状況だ。  中井は自らの嗅覚でサンタクロースを見つけられるようなので別行動を取っているが、奴はどうやらサンタクロースに避けられているようなので、実質囮役に過ぎない。  中井が追い込んだところを幸一が捕まえなくてはならないのだが―― (とは言ってもな……)  サンタ発見機は、場所の特定まではしてくれない。  例え方向がわかったとしても、流れるひとごみの中から個人を特定して捕まえるのは難しそうだった。  それでも、とりあえずはそれしか方法がないので続けるしかないのだが。  そうして歩いている間に、中井と合流してしまった。 「駄目か」 「追い込みきれませんね」 「近くにはいるみたいなんだがな」  サンタ発見機は反応している。  未だ幸一達と一定の距離を保っているらしい。 「やはり、あの写真を使うしかないですね」 「それは諦めると同じ意味だ、捕まるぞ。それより、他に道具はないのか?」  藁にもすがる思いで幸一は訊ねる。  すると中井はコートの隙間に手を差し込み、まさぐるように中を探る。  相変わらずその中身が気になるところだが、公衆の面前でそれを訊ねるのはリスキーだろう。 「これなんぞどうでしょう」  取り出したのは金色のベル。  ジングルベルというフレーズがあるように、クリスマスには装飾としてよく見かける鈴だ。 「これは、どんな変態機能が?」 「これはですね、S‐フィールド発生装置といいます」 「え、えすふぃーるど? ビーム兵器を無効化したり出来るのか?」 「いえ、それは愛のないフィールドには不可能でしょう」 「言ってることがよくわからないんだけど」 「またまた」 「いや、とにかくそのS‐フィールドとやらの説明を頼む」 「まあ、所謂『意識迷彩発生力場』という奴ですよ」 「いわゆらねーよ。なんだよ、それは」 「いわゆりますよ。ステルスって言えばわかりやすいですか? このベルから発生する特定周波音が脳に作用し、この音の発生源を意識から遠ざけるよう促すのです」 「あん?」  
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