第一章

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  「例えそれが異質であっても、まるで周囲と同化した風景の一部としか見られないわけです」 「つまり、透明人間になるってことか?」 「実際に透明にはなりませんが、そういうことです」  サンタクロースがプレゼントを運ぶ姿を目撃されないのはその為らしい。  夜中だってのに鈴を鳴り響かせる寓話のサンタクロースにも、ちゃんとそんな背景があったのだ。  しかし、とあることにも合点がいく。 「お前、それ使って盗撮したな?」 「……してない」  あからさまに視線を逸らす中井に、幸一は本気の侮蔑を込めて言い放つ。 「犯罪者!」 「はっ、トナカイにこの国の法律が適用されますかねぇ」 「開き直りやがった!? 最低だな!」 「夢を持ちすぎですよ、トナカイだって人間です」 「トナカイだろ」 「子供のご機嫌とってチヤホヤされて面目躍如な生活を送るトナカイなんて、もうこの世にはいないんですよ、世界から聖人が消えたように」 「だからって盗撮を是とする理由にはならねぇよ! つーかその様子じゃまだまだ前科があるな?」 「……ない」 「あるんだな。最低だな」 「まあまあ、今はサンタ様を見つけることに専念しましょう」  こんなトナカイの主がまともなわけがない。  幸一は俄然サンタクロースに逢いたくなくなった。  もっとも、人の幸福――プレゼントを取り落とすようなサンタクロースに最初から期待する余地などないが。 「これを使えば、サンタ様に見つかることなく近づけるはずです」 「そうみたいだな」 「ただし、このベルを鳴らした瞬間の音――まあ、一般人には聞こえない音なんですが、それをサンタ様は感知してしまいます」 「つまり、使用自体はバレバレってことか」 「もっとも、効果そのものは変わりませんから安心してください」 「ああ」 「ベルは私がつけます。恐らく、彼女は一定の距離など考えず全力で逃げると思うので、そこを捕まえましょう」 「消えることで近づくんじゃなく、消えたことを知らせ相手にアクションをとらせることで捕まえるんだな?」 「無論、消えていることも有利に働きますよ」  しかし、そうなると相手は逃げに徹するだろう。  完全に捕捉から外れる前に捕まえなくてはならない。  
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