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「ちなみに効果持続はこの世界の時間で30分程度です」
「そんなに短いのかよ、一晩でプレゼントを運び回るには足りないんじゃないか?」
「優秀なトナカイほど効果持続は短いんですよ」
目の前のトナカイが優秀だとは思えないので、普通のトナカイは恐らく数十秒単位に違いない。
「では、30分後に会いましょう。ご武運を」
中井は手にしたベルの上部についたリボンを摘み、軽く手首で振った。
音もなく、煙が大気に拡散するように中井が消えていった。
「居ました、12時の方向! あの走り出した子を追ってください!」
姿は見えず声だけが聞こえる。
言われた通りに真っ直ぐ見据えると、人混みを縫うように走る少女の姿が一瞬見えた。
「先回りしますので追いかけて!」
その姿を追って幸一は駆け出す。
距離と人混みのせいで、見失うか見失わないかの瀬戸際である。背格好を観察する余裕もない。
途中、路地裏に方向を変えたが、幸一はその路地裏には入らない。
クリスマス以外ではこの界隈を遊び歩いているのだ。どの道から入ればどこから出るくらいのことは把握している。
その路地裏はコの字になっているだけで他に出口はない。そのため直進した方が早いのだ。
案の定、少女が出てくるより先に幸一が出口に辿りついた。
幸一はそのまま路地裏へと入っていく。
曲がり角の先から足音が聞こえてきた。
このままいけば、正面から出くわすだろう。
30分もいらない。10分かかったろうか。
呆気ないゲームクリアに幸一はほくそ笑む。
だが――忘れてはいけなかった。
今年の不幸は、一日早かったのだと。
「はぁはぁっ――」
曲がり角から飛び出す少女。
幸一を正面に見据え、一瞬怯んだ後、後ずさることもなく立ち止まった。
幸一もまた、捕まえようとせずに立ち尽くす。
目と目があい、互いに全力疾走した後だというのに呼吸が止まった。
酸素が回らず頭が真っ白になる。
しかし、意識は何とか踏み止まり、そして――後退したのは幸一の方だった。
信じられないものを見るように、壁際まで後ずさる。
少女はどこか悲しげな表情を見せながらも、身を翻して走り去る。
――何故だ。
理解出来ない。
彼女はサンタクロースじゃない。
じゃあ何故逃げた?
ならアレは彼女じゃない。
じゃあ何故あんな表情を?
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