第二章

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         /1  一瞬躊躇ったが、幸一はすぐに彼女の後を追った。  靡くスカート。  乱れる髪。  冷静になってよく見れば、確かにそれは彼女の後ろ姿だった。 「カナエ!」  走りながら幸一はその名を叫ぶ。  彼女は諦めたようにスピードを緩め、とうとう立ち止まった。  息を弾ませながら近づき、その背後に幸一も立ち止まる。 「叶、だな?」  もう一度その名を呼ぶ。  少女は振り返り、小さく笑った。 「他に誰に見える?」  確信を得てもまだ幸一は信じられなかった。  目の前の人物――叶小夜子があの憎きサンタクロースだなんて。 「何で……」 「なんでって、そんなザックリとした質問されても困るけれど。何故逃げたか、と問われれば、それは追い掛けられたからとしか言いようがないわね」 「何故!」 「何故って、そんな直球で聞かれても困るけれど。サンタクロースだから、じゃ答えに不足しているかしら?」 「――っどうして」 「どうしてって、そんな根本的なことを聞かれても困るけれど。雪崎くんが雪崎くんであるように、私はただ私であり、そうであるが故にそうだとしか言いようがないわ」  さらに問い掛けようとして、しかし言葉が出なかった。  幸一の求める答えを導き出す為に必要な質問がわからなかった。  わかるはずもない。そんなもの、存在しないのだから。  幸一が欲しいのは回答じゃない、否定だ。  そして小夜子が持つ答えは肯定だけだった。 「本当に、叶がサンタクロースなのか?」 「ええ。間違いないわ。正確には、元サンタクロースね。今はただのニート――いえ、学生かしら」 「あのトナカイの主なんだな?」 「どのトナカイを指しているかは確信が持てないけれど、シフォンを指しているなら間違いないわ」  中井の本名はシフォンというらしい。  初耳だが今はどうでも良いことだった。それよりも、アレの主ということは、つまり―― 「俺から幸福なクリスマスを奪ったのは、叶なんだな?」 「全ての責任があるとは言えないけれど――そうね、少なくともプレゼントを取り落としたのは事実よ。本当に、なんて言っていいか……」 「何も言わなくていい。ただ一言、嘘だと言ってくれ」  小夜子は口を開かず、ただ悲しそうに俯いたまま、首を横に振った。  それが答えで――それが全てだった。  彼女は、サンタクロースなのだ。  
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