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一瞬躊躇ったが、幸一はすぐに彼女の後を追った。
靡くスカート。
乱れる髪。
冷静になってよく見れば、確かにそれは彼女の後ろ姿だった。
「カナエ!」
走りながら幸一はその名を叫ぶ。
彼女は諦めたようにスピードを緩め、とうとう立ち止まった。
息を弾ませながら近づき、その背後に幸一も立ち止まる。
「叶、だな?」
もう一度その名を呼ぶ。
少女は振り返り、小さく笑った。
「他に誰に見える?」
確信を得てもまだ幸一は信じられなかった。
目の前の人物――叶小夜子があの憎きサンタクロースだなんて。
「何で……」
「なんでって、そんなザックリとした質問されても困るけれど。何故逃げたか、と問われれば、それは追い掛けられたからとしか言いようがないわね」
「何故!」
「何故って、そんな直球で聞かれても困るけれど。サンタクロースだから、じゃ答えに不足しているかしら?」
「――っどうして」
「どうしてって、そんな根本的なことを聞かれても困るけれど。雪崎くんが雪崎くんであるように、私はただ私であり、そうであるが故にそうだとしか言いようがないわ」
さらに問い掛けようとして、しかし言葉が出なかった。
幸一の求める答えを導き出す為に必要な質問がわからなかった。
わかるはずもない。そんなもの、存在しないのだから。
幸一が欲しいのは回答じゃない、否定だ。
そして小夜子が持つ答えは肯定だけだった。
「本当に、叶がサンタクロースなのか?」
「ええ。間違いないわ。正確には、元サンタクロースね。今はただのニート――いえ、学生かしら」
「あのトナカイの主なんだな?」
「どのトナカイを指しているかは確信が持てないけれど、シフォンを指しているなら間違いないわ」
中井の本名はシフォンというらしい。
初耳だが今はどうでも良いことだった。それよりも、アレの主ということは、つまり――
「俺から幸福なクリスマスを奪ったのは、叶なんだな?」
「全ての責任があるとは言えないけれど――そうね、少なくともプレゼントを取り落としたのは事実よ。本当に、なんて言っていいか……」
「何も言わなくていい。ただ一言、嘘だと言ってくれ」
小夜子は口を開かず、ただ悲しそうに俯いたまま、首を横に振った。
それが答えで――それが全てだった。
彼女は、サンタクロースなのだ。
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