第二章

4/23
前へ
/60ページ
次へ
   中井は悪くない。  いや、誰が悪いだとか、今さらそんなことを言っても仕方がないのだ。  ただそこに不運があり、それが幸一の不幸だっただけの話。もう何年も前にそれは始まってしまっていたのだから、手の尽くしようがない。 「でも知り合いだってんなら、他にアプローチの仕方もある」 「まだ、手伝ってくれるんですか?」  幸一は苦笑とともに頷きを返す。  小夜子と中井を並べたら間違いなく手放しで小夜子をとるが、それでも幸一自身、“サンタクロース”を問い質してやりたいという気持ちが強かった。 「俺が一人で叶に会う。多分、お前さえいなけりゃ会ってくれると思うから」 「な――……まぁ、そうですね」  中井は否定の言葉を飲み込んで頷いた。  先程の様子を見ればわかることだ。  小夜子は明らかに中井を避けている。 「でも、ケータイは壊れてるし、連絡が取れないんだよなぁ」 「あ、それでしたら」  中井は例の如くコートの中に手を突っ込み、何かを引っ張り出す。 「これをお使いください」  トナカイのマスコットストラップがついたピンク色の直方体。  表一面がディスプレイになっており、縦にスライドさせると下からパネルキーが現れた。 「携帯電話? 持ってたのかよ」 「いえマルチチャンネルアクセスには対応してません。特定交信機ですね。この場合、サンタ様とのみチャンネルを共有しているわけですが」 「でも、中井のなんだろ? 出るか?」 「あなたがかければ大丈夫です」  よくわからないまま、幸一はその交信機を受け取った。 「使い方は?」 「そのまま発信ボタンを押していただければ」  普通の携帯電話と同じように、数字キーと一緒に通話マークが描かれたボタンがあった。  そのボタンを押すと、発信音が聞こえてくる。  交信機を耳に当て待っていると、4コール目に繋がった。 「雪崎くんね」 「あ、ああ」  中井のいうとおり、小夜子は、声すら出す前に電話口にいるのが幸一だと言い当てた。  見た目はただの携帯電話でも、やはり謎の技術が含まれているらしい。 「用件は――って聞かなくてもわかりそうだけど」 「会えないか? 中井――シフォンだっけ? トナカイは同伴させないから」  少し迷うような間があってから、小夜子は答える。 「――わかったわ。私も答えを聞いていないし」 「答え?」 「そう――告白の答え」  
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加