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中井は悪くない。
いや、誰が悪いだとか、今さらそんなことを言っても仕方がないのだ。
ただそこに不運があり、それが幸一の不幸だっただけの話。もう何年も前にそれは始まってしまっていたのだから、手の尽くしようがない。
「でも知り合いだってんなら、他にアプローチの仕方もある」
「まだ、手伝ってくれるんですか?」
幸一は苦笑とともに頷きを返す。
小夜子と中井を並べたら間違いなく手放しで小夜子をとるが、それでも幸一自身、“サンタクロース”を問い質してやりたいという気持ちが強かった。
「俺が一人で叶に会う。多分、お前さえいなけりゃ会ってくれると思うから」
「な――……まぁ、そうですね」
中井は否定の言葉を飲み込んで頷いた。
先程の様子を見ればわかることだ。
小夜子は明らかに中井を避けている。
「でも、ケータイは壊れてるし、連絡が取れないんだよなぁ」
「あ、それでしたら」
中井は例の如くコートの中に手を突っ込み、何かを引っ張り出す。
「これをお使いください」
トナカイのマスコットストラップがついたピンク色の直方体。
表一面がディスプレイになっており、縦にスライドさせると下からパネルキーが現れた。
「携帯電話? 持ってたのかよ」
「いえマルチチャンネルアクセスには対応してません。特定交信機ですね。この場合、サンタ様とのみチャンネルを共有しているわけですが」
「でも、中井のなんだろ? 出るか?」
「あなたがかければ大丈夫です」
よくわからないまま、幸一はその交信機を受け取った。
「使い方は?」
「そのまま発信ボタンを押していただければ」
普通の携帯電話と同じように、数字キーと一緒に通話マークが描かれたボタンがあった。
そのボタンを押すと、発信音が聞こえてくる。
交信機を耳に当て待っていると、4コール目に繋がった。
「雪崎くんね」
「あ、ああ」
中井のいうとおり、小夜子は、声すら出す前に電話口にいるのが幸一だと言い当てた。
見た目はただの携帯電話でも、やはり謎の技術が含まれているらしい。
「用件は――って聞かなくてもわかりそうだけど」
「会えないか? 中井――シフォンだっけ? トナカイは同伴させないから」
少し迷うような間があってから、小夜子は答える。
「――わかったわ。私も答えを聞いていないし」
「答え?」
「そう――告白の答え」
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