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取り落とした不幸を貰ったのは幸一ではない。
じゃあ、いったい誰が――いや、何故幸一は不幸になったのか。
そもそも、ならばこの話はなんのために――そこまで考えて、中井の顔が浮かんだ。
小夜子がサンタクロースを辞めた理由。それが今聞いていることだ。
混乱はあったが幸一は質問を控えて続きを促す。
「彼女はずっと君を見ていた。クリスマスに不幸が続く君を見て、心を痛めていた」
「俺を……いったい誰が?」
「中井可奈子」
脳みそを殴られたように意識が揺れた。ここで、その名前が出てくるなどと、幸一は微塵も思っていなかった。
中井可奈子――幸一の隣の家に住む年上の少女だった。確かに、よく遊んでもらった記憶はあるし、よく気にかけてもらっていたのは事実だ。
しかし、彼女が――なんだって?
「『誰かの不幸を背負う』だなんて、……なんで、そんな」
「私もそれが知りたかった。だから、サンタクロースを辞めた、人間に、彼女に近づくためだけに。幸せを運ぶサンタクロースが取り落とした不幸を、それが本当のプレゼントだと喜んだ彼女に私は興味を持った」
「……会えたのか?」
「もちろん」
「自分がサンタクロースであることは?」
「言ったわ。願いのことを言ったらかろうじて信じてくれた」
「彼女は、なんて?」
「『幸、不幸が不平等から生まれるなら、誰かより不幸な人間がいれば不幸も少しは幸せに変わるかもしれない。だから不幸な私なら彼を幸せに出来るかもしれないと思った』からだそうよ」
「馬鹿な、なんでそんな!」
「好きだったんじゃない? 君が」
「でも、それは――なんていうか」
幸一は言葉が出ずに口ごもる。
頭には一つの言葉が浮かんだが、それを口に出そうとはしなかった。
しかし、そんな幸一の心を読み取ったように小夜子は言葉を紡ぐ。
「狂ってる、よね」
「いや……」
「私はそう思った、けどますます彼女に惹かれた。そして――彼女を狂わせた君にも」
目の前の少女から告白されたのは事実だ。
しかし、それは、その言葉から察するに別の意味が含まれていたことに気づいてしまった。
「観察対象、か?」
「かしらね、わからないわ。好きよ、人間。君も、彼女も」
わからなくなった。
目の前の事実が現実味を帯びない。
陽炎のように視界が揺らめく。
それはまるで夢に誘われる瞬間のように。
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