第二章

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   よくはない――。  言っておいてなんだが、幸一の問題とて解決してはいないのだ。むしろ、悪化したとも言える。  いや、その真実が事実として存在していた以上、悪化というのも語弊がある。  しかし、幸一の主観からしてみれば同じことだった。  そして、幸一と中井とがそれぞれ持つ問題は乖離してしまったとも言える。  いや――もとより同調などしていなかったが。 「しかし、どうしたものかな」  溜息混じりに幸一は呟いた。  サンタクロース――叶小夜子が語ったこと。  幸一が恋した相手。  幸一に恋していた――はずの相手。  しかし、その恋慕は幸一以上に、“人間”そのものに向けられていた。  幸一の初恋の相手――中井可奈子。とりわけ、その人に。 「顔色がよくないですよ?」  中井――トナカイのシフォンが心配そうに幸一の顔を覗き込む。 「布団が獣くさくてな」 「男は狼とはよく言ったものです」 「痛め付けるぞ」 「表現が暴虐的になってきましたね、お疲れのようで」 「まあな」  肯いて、幸一は上体を再びベッドに沈める。  このまま眠りについて、明後日を迎えれば、またいつもの日常が戻ってくるんじゃないか、そんな幻想を抱く。  もとより、不幸はクリスマス一日の筈だ。毎年そうだった。  だから、きっとこれはその悪夢の一つに過ぎず、しかし黙っていれば傷口はさほど広がらずに日常を迎えられるに違いない。 (いや――小夜子がサンタクロースである以上、この傷は塞がらない。あるいは時間が経てば塞がるかもしれないが)  それは長い時間が必要そうだった。  そしてそれもまた、一つの傷である。 「おい中井」 「なんでしょう」 「あの迷子の子にやったみたいに、俺にもプレゼントもらえないのか? お前の減点方式でさ」 「前借り……は、可能ですが。あなたの場合、どんなに良い点数でも、良いプレゼントを受け取ることは出来ませんよ?」 「なんでだよ」 「あなたが負債を抱えているから」  負債。  もらうはずではなかったプレゼント。  いつまでももらえないプレゼント。  思えば、しかし、それもおかしな話だ。  小夜子が落とした不幸――プレゼントは中井可奈子が受け取った筈だ。  では幸一の不幸は誰によってもたらされたのか。 「クリスマスは、明日か」  溜息のように幸一は呟いた。  
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