伸ばした指先に触れたのは

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 晴れ渡る天空は透き通るような蒼。暖かな風と共に揺れるは活発な、彩り豊かな表情を見せる生命の息吹き。  やがては海へと注ぐだろう水はどこまでも澄んでいて、色を持たない故に様々な表情を見せてくれる。  決して無音ではない静寂が広がるその場所に私はいた。私は一人、己に様々な姿で魅了させてくれる自然に身を委ねていた。髪を揺らす風や甘い花の香り。私は随分長く生きているが未だにこの世界に飽きることは無い。  私の口から声が漏れる。世界の美しさには感動して止まない。たまには私も奏でてみようか、この静寂を壊さないように控えめに歌う。  いつの間にか、か弱き命達は私の歌を聴きに来ていた。鳥達は共に歌い、花は共に踊る。それはとても静かで、穏やかな一時だった。  ――そしてこれが、私の永久に続く風景なのだ。  同じ景色に私は飽きることは無いのだろう。そもそも同じ景色など無い。風は二度と同じには吹かず、花は春夏秋冬全く違う色に変わる。水も一瞬にして私の目の前から姿を消し、か弱き命達は私に限りあるものの美しさを教えてくれた。  私も風と共に笑い、花と共に笑い、水に寂しさを感じ、か弱き命に涙を流した。  だが私は常に憂えていた。私のことを最も慕ってくれて、私と似た境遇に置かれた存在を。  そしてそれは、己と似て非なる全く別の存在――
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