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「そして私達は太陽と月と同じように、会うことは許されない。……今日のような日を除いて」
私と彼は空を見上げた。本来ならば、天空を支配する太陽の光が世界に満ちて行く筈なのだ。
だが、今は違う。太陽と月が重なり合う、私達の逢瀬が許された刹那の時。
「月が太陽を覆い隠す時間。“日蝕”の時だけ我々の逢瀬も許される」
月の帝王が静かに言った。私は視線を彼に戻す。
己の存在が無ければ保てない、夢幻のような月の帝王。私の視線に、彼の銀の視線が絡み合う。
「……会いたかった。太陽の女神よ」
再び紡がれた言葉と共に伸びた冷たい手が、私を捕まえた。その強い力に抗うことも出来ずに、私は彼の腕の中に閉じ込められる。
抗う気など、全く無いのだが。
「……私も、この時を楽しみにしていましたよ。月の帝王よ」
「今この時だけでもいい、貴女を独り占めにしても許されるのだろう?」
耳元の甘い囁きが私を何処までも惑わす。これは私達に許された僅かな時。永久に掻き消される程に微小な時間なのだ。
だがこの時は永久よりも濃く、私や彼の中でいつまでも鮮やかに輝く時間なのだ。
再び会える時を待つには、永久はあまりにも長すぎる。その時に堪えられる程、私は強くはない。
「この身を捨てられたらどれほど楽か――」
月の帝王の声に思考が戻る。この時はやがて終わる。この腕を振り払わなければ辛くなるのは明白な事実なのに、それなのに彼から離れることが出来ない。
私も彼を求めているのだと、嫌でも思い知らされる。
「この身を捨てられたらどれほど楽か、よく考える」
「……何故、そんなことを」
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