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仕事に追われていてもシンディと逢うと不思議と癒されて、疲れが取れる。
こんな感覚は初めてだ...いつもなら、さっさと落として、する事を済ませて後腐れない関係が良かったし、それで充分満たされていたはずだ。
それなのに、この俺が手も出せずにいるなんて笑える。
「...菖蒲(ショウブ)さん、最近楽しそうですね」
「分かる?」
最近では、マスターに話しかけられても返す余裕まで出てきた。
今までは、構われるのも鬱陶しいとおもっていたのだから、不思議だ。
「まぁ、聞かなくても理由は分かりますが...本気じゃないなら傷付けないように頼みますよ?」
「へー、珍しいな。いつもは何も言わないのに...」
マスターに釘を刺されるなんて珍しい...というより初めてだ。
このbarで逢って関係を持った奴もいたけど、今までそんなふうに言われたことは無い。
「菖蒲さんなら大丈夫だと信じていますが、あそこまで遊び慣れてないと、心配もしたくなりますからね」
にこやかに返されるが、その瞳は笑っていなくて面食らう。
なるほど...どうりで、このbarではイザコザを聞かないわけだ。
どちらも大切な私のお客様ですから、と本来のにこやかな表情に戻ったマスターは、さり気なく頼んでもいないカクテルを出して、つまらない長話のお詫びにどうぞと言って離れていった。
この人は敵にしたくないな、と苦笑する。
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