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逢いたい、と意気込んできたまでは良かったが現実は厳しい。
「お先に失礼します」
今日も目の前では、ペコリとお辞儀をされ、「気をつけて」と見送ることしか出来ていない。
連日通いつめているのに、この有様だ。
「...はぁ」
マスターにまでカッコつけるのも面倒で溜息をつきながら項垂れる。
「菖蒲さん、本気になりました?」
面白そうに聞いてくるマスターの声に軽く睨みつける。
分かってるくせに、聞いてくるなよ…いや、聞いてほしいのかもしれない。
「...俺の方が落ちてるよ。...どうにも、難しい」
「彼はノンケでしょうからね。ただ...私は彼が菖蒲さん以外と話しているのを見た事はありませんがね」
その言葉に思わず体を起こしマスターを見ると、悪戯っぽく笑っていた。
そろそろ行ってもいい、とお許しが出ているようで、それが背中を押してくれそうだ。
明日こそは、何かきっかけを掴みたい。
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