麗しのシンディ

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シンディは明らかにソワソワしだし、彼のグラスを見れば、手が緩んできていた。 「危ない。大丈夫?」 咄嗟に、彼の手の上から自分の手を重ねてグラスを支える。 「す、すみません...」 謝るシンディは耳まで赤くなっている。 「アヤメさん!」 突然、顔を上げたシンディが俺の名前を呼んだ。 「ん?何かな?」 まぁ、ショウブという字はアヤメとも読むし、学生時代は友達から、そう呼ばれることもあった。 マスターが菖蒲(ショウブ)さんと呼ぶのを聞いて、頭の中でアヤメと変換してしまったのかもしれない。 「すみません、僕ドジで...」 知ってる...というより天然だよね君は。 「あれ?...アヤメさん?」 確かめるように、もう一度呼ばれる。 「うん?」 彼を見れば、少し青ざめているようにも見える。 まったく表情がコロコロ変わって面白い。 「貴方のお名前は?...その」 あれ?知ってたわけじゃないのかな? 「あぁ、俺は、菖蒲直人。ショウブというのはアヤメとも読むけど」 やっぱりシンディは面白い。 なんで俺をアヤメだなんて呼んだんだろう? 「あっ」 ふにゃっと笑ったかと思うと、次の瞬間、彼はまた時計を気にしている。 「...明日は休みなのに時間を気にするの?」 「何となく癖になってしまって...」 へぇ、余裕あるじゃないか。 ちょっと煽ってやりたくなって、重ねていた手に力を込める。 「...ッ!」 その瞬間、彼の身体がびくっと震えて内心ほくそ笑んだ。 「それで、俺は成就したのかな?」
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