rain

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雨の日は好きだ。 雫の音が心を洗い流してくれるような気がするし、気持ちが穏やかになる。 そして...彼に会えるから。 私は、テーブルの上のティーカップを片付けながら、窓際の定位置に座る彼を盗み見た。 涼し気な1重の切れ長な目元に泣きボクロがあり、ツーブロックのショートをパリッと決め、珈琲に口を付けている男に内心ゾクリとする。 30代前半あたりだと思うが、ダーク系のスーツにネクタイまでキッチリしているところを見ると、その姿が乱れた所も見てみたいと感じてしまう。 まぁ、あんな真面目そうなノンケの男が、40過ぎのオヤジを相手にどうこうなることなど有り得ないのだけれど。 もしも、夜に訪れる事があれば、声を掛けて落とそう...などと、1人でどうしようもない賭けをしてしまう程には彼が気になっていた。 私の店は、昼間は喫茶、夜はbarというスタイルであり、立地としても駅前の通りから少し中に入った裏通りに面しているため、昼間の客が夜にも訪れることは珍しくないが、彼の場合はどうだろうか? 「...お会計お願いします」 ...彼だ。 凛と通った声は、低すぎず柔らかさを含んでおり耳に心地いい。 「畏まりました」 悟られないように、務めて業務的な笑顔を返しながら伝票を受け取る。 彼の左の指には相変わらず指輪の跡が残っていた。 彼が店に来るようになって2年、指輪が外れてからは、もうすぐ、1年になる。
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