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「じゃあ、お邪魔しちゃ悪いから俺はこれで...」
「ありがとうございました」
否定するのも面倒で、菖蒲さんの話を流しながら笑顔で送り出す。
それはいいとして...
目の前のカウンターの彼は、頬杖を付きながらこちらを見て笑った。
「さて、これで僕だけになりましたね」
この男、演じていただけか…?
「えぇ、そのようですね」
彼をちらりと見ながら、微笑み返す。
ジャズの流れる中、二人だけの空間は、不思議と心地よかった。
「そろそろ聞いてもよろしいですか?」
時計が1時を指す中、本題に入らせてもらう。
「仕事終わりを聞かれましたが、貴方は私とのワンナイトラブでもお望みで?」
本来なら失いたくない相手だが、時間も遅いので、回りくどく躱されても面倒でストレートな言葉を選んだ。
「...うーん、どうでしょう。男性は初めてだし、そういうのは...よく、分からなくて...」
...いかん、攻めすぎたか。
彼の目頭にうっすら涙が溜まり、声がつまる。
「すみません、言葉が乱暴でした。貴方は、そんなつもりでは無かったようですし、話でもしましょうか?」
私の言葉に頷く彼に、珈琲をたてる。
「本当は、夜はしていませんので内密にお願いします」
「ありがとうございます…」
彼は珈琲を含みながら、穏やかに笑った。
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