rain

6/11

141人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
「じゃあ、お邪魔しちゃ悪いから俺はこれで...」 「ありがとうございました」 否定するのも面倒で、菖蒲さんの話を流しながら笑顔で送り出す。 それはいいとして... 目の前のカウンターの彼は、頬杖を付きながらこちらを見て笑った。 「さて、これで僕だけになりましたね」 この男、演じていただけか…? 「えぇ、そのようですね」 彼をちらりと見ながら、微笑み返す。 ジャズの流れる中、二人だけの空間は、不思議と心地よかった。 「そろそろ聞いてもよろしいですか?」 時計が1時を指す中、本題に入らせてもらう。 「仕事終わりを聞かれましたが、貴方は私とのワンナイトラブでもお望みで?」 本来なら失いたくない相手だが、時間も遅いので、回りくどく躱されても面倒でストレートな言葉を選んだ。 「...うーん、どうでしょう。男性は初めてだし、そういうのは...よく、分からなくて...」 ...いかん、攻めすぎたか。 彼の目頭にうっすら涙が溜まり、声がつまる。 「すみません、言葉が乱暴でした。貴方は、そんなつもりでは無かったようですし、話でもしましょうか?」 私の言葉に頷く彼に、珈琲をたてる。 「本当は、夜はしていませんので内密にお願いします」 「ありがとうございます…」 彼は珈琲を含みながら、穏やかに笑った。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加