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「おまちどうさま!」
「わぁ!いっただっきまーす」
目の前には、向かい合うようにして出来立てのパスタにサラダ、スープが並ぶ。
フォークに麺を絡めると 、バジルのいい香りがした。
「...うまい!」
「でしょ?良かった!」
目の前にいる熊みたいな大柄の男─前郷 縁(まえさと ゆかり)は、見た目に反して手先が起用で「新作」と称しては店に出す前の料理を俺に食べさせてくれる。
「...ちょ、見過ぎだから」
視線を感じて抗議すれば、別に良いじゃない、と答えながらにこやかに返された。
美味しそうに食べる顔を見るのが好き、と豪語する縁はカフェの厨房で働いている。
「じゃあ、オレも食べようかな...んー!うまいねぇ」
向かいに座る縁は、綺麗にパスタを食べながら笑った。
あぁ、幸せだな─縁とのこんな日常がずっと続けばいいのに…。
まぁ、恋人のような間柄でもなければ、ルームシェアさえもしていない、単なる友達の俺には直面すべき壁があるのだけれど。
「それで縁...好きな人できたの?」
目の前の熊が嬉しそうに微笑む。
縁は、好きな人が出来ると分かりやすい。
その人の好きな食べ物の新作料理ができるからだ。
「...うん」
乙女のように照れる縁に心が痛む。
俺は、こうして毎回告白もせずに振られるのだ。
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