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バンッ…
同じ頃、廊下を歩いていた谷原久志(タニハラ ヒサシ)は、ドアが閉まる大きな音に顔を上げた。
ドンッ…
「…ん?おっ…と」
何かがぶつかり、反射的に受け止める。
「…大丈夫か?」
目をやれば、部下の狩野が震えていた。
いつもは綺麗に整えられている髪が乱れ、ファンデーションは崩れかかっている。
明らかに、尋常な様子じゃないな。
「…は…い。すみません」
やっとのことで、開いた口からは、いつもの彼女からは想像できない弱々しい声が返ってきた。
「何か…」
言い掛けた谷原は、葉子の強ばった表情を見て、彼女の肩から手を放し微笑する。
「立ち入ってすまなかった。…気を付けて帰りなさい」
「…ありがとうございます」
目の腫れた顔を見せながらも、その口元は少しだけカーブしていた。
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