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「じゃあ、お先に失礼します」
いつものようにペコリと頭を下げてから、身を翻してそばを離れる。
別れを告げる時は、いつも自分から、と決めている。
だって、切ないから。
「あぁ、気をつけて」
背後からは、いつものように柔らかい声が聞こえ、それが聞こえてからドアを出た。
...カラン
裏通りにあるbarのドアを閉め、外に出ると一気に現実に戻った気がするが、それが心地よい。
夢は夢で、僕は現実の中でいきているのだから。
あぁ、これで今日もゆっくりと眠れる。
いつも挨拶をして別れるのは、同僚でもご近所さんでもなくbarでの常連さん仲間のアヤメさんだ。
アヤメさんというのは、本名ではなくて、僕の中だけのニックネームだったりする。
アヤメという名前にしたのはいい香りがするのと、静かな中にも凛とした美しさがあるところが似ているから...という僕の勝手な解釈。
本当は、本名がわかればいいのだけど、そんなことを聞く勇気もなく、ただ何となく毎日を過ごしている。
アヤメさんは、僕よりも少し年上でSEという激務の仕事をしているらしい。
身長は僕よりも高い180cmくらいで、茶髪にメガネで、ダーク系のスーツを着こなすオシャレな感じの人だ。
大口の仕事が終わったとかで、ここ数日は連日顔を見ている。
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