愛しの菖蒲さん

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カラン... 「こ...んばんは...」 いたー! 「こんばんは、今日は遅かったね。仕事?」 アヤメさんは少し笑いながら迎えてくれた。 「えぇ、残業が入ってしまいまして...」 アヤメさんの隣に座りながら、シャンディガフを注文する。 今日も逢えた...相変わらず綺麗だなぁ。 時計を見れば、11時半...あと20分くらいなら一緒に居られる。 でもいざ逢うと言葉が出なくて、気の利いたことも言えない自分がもどかしい。 ここに来る時に見た月はここ最近で一番綺麗だったなぁ、なんて思い出しながら運ばれてきたシャンディガフでアヤメさんと乾杯する。 「こ、今夜は月が綺麗ですね」 やっと出た言葉が月の事だなんて、我ながら冴えない男だと思うけど… 「...死んでもいいな」 少し考えながら、アヤメさんが流し目でこちらを見た。 今の流れで、死んでもいい? なんか、悩んでいるんだろうか?アヤメさん、やっぱりSEって大変なんだろうな... あれ?なんか記憶に引っかかるものがあるような... えっ...それって...? 思わず体が震えた。 夏目漱石先生の有名なアイラブユーの和訳には、セットで二葉亭四迷先生の和訳が用いられることがある...男性からの「月が綺麗ですね」の言葉に対し女性からOKの答えとして「死んでもいいわ」と。
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