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「...危ない。大丈夫?」
手から滑り落ちかけたグラスを持つ僕の手を包み込むようにしてアヤメさんの手が重なった。
「...す、すみません」
どうしよう...アヤメさんの手が...重なってる。
息が苦しい。
「アヤメさん!」
「ん?何かな?」
「すみません、僕、ドジ...で...あれ?」
冷静になり掛けた頭が、僕の心を違うドキドキに変えていく。
「アヤメさん?」
「うん?」
正面のアヤメさんは面白そうに笑っている。
何で?アヤメさんって言うのは僕の中だけでのニックネームのはずなのに、目の前の彼は普通に返事をしている。
「貴方のお名前は...その?」
「...あぁ、俺は、菖蒲(ショウブ)直人。ショウブというのはアヤメとも読むけど。」
まさか、本当にアヤメさんだとは...
こんな偶然てあるのだろうか…まるでお伽噺みたいだ。
思わずフッと笑が溢れる。
「あっ...」
不意に時計が目に入る。
11時55分を指していた。
「...明日は休みなのに時間を気にするの?」
「何となく、癖になってしまって...」
答えながら、そう言えば明日は休みだったと苦笑する。
それならば少しくらい遅くなっても構わないか...
「...ッ!!」
触れられてることが頭から飛ぶほどの微かな重なり方になっていたアヤメさんの手に力がこもる。
メガネの奥の瞳が妖艶に光った気がした。
「それで...俺は成就したのかな?」
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