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「...もう、やめてよ。その顔...」
「あ、すみません...」
僕から顔を逸らしたアヤメさんに、また溜息をつかれて、少し泣きたくなる。
にやけてしまったのが、ふざけているように見えたのかもしれない...
「あー...マスターお会計、二人纏めて」
「えっ?」
ビックリしている間に、スマートなアヤメさんはマスターに伝票を貰って会計をしている。
「...帰るよ?」
有無を言わさない声と僕の腕を引く手が心なしか、熱い気がした。
...カラン
「あ、あのアヤメ...じゃなくてショウブさん!」
「直人でいいよ…」
答える声は優しいけど、やはり強い力でどんどん引っ張られていく。
数件先の角を曲がった時だった...
...ッ!!
突如、ぐっと引かれた腕にバランスを崩して彼の胸に倒れ込んでしまった。
「...あんな顔するからだよ?」
「...っ!」
耳元で転がる、いつもより低いアヤメさんの声に体が震える。
「君の答えが待てなくなった...嫌なら逃げて?」
背中に腕が回され、指で髪を梳かれる。
僕はbarから出たはずなのに、まだ夢の中にいるようだ。
ずっと、恋焦がれていたアヤメさんの腕の中にいるなんて...
嫌なはずなんてない。
なんて伝えればいい?
好きです、というにも苦しくて、でも、愛してるなんて簡単に言えるほどの関係にはなれていないけど、好きよりも強い想いを伝えたい...
「つ...月が綺麗ですね!」
僕は精一杯の言葉を言いながら、彼の背中に腕を回す。
「...死んでもいいわ」
そういった彼は、僕の肩に顔を埋めた。
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