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「なぜ、舞台の時はそのような化粧をつけるのですか?」
ある日、私は何を思ったのか、一人の芸人にこう質問したことがあった。
奇抜な衣装に化粧。いわゆるイロモノ芸人と言われるもので、舞台上では常に変人のようなふりをしてたまにはスベったり、時にはウケたりと不安定なネタを披露している芸人がいた。
「なぜ、舞台の時はそのような化粧をつけるのですか?」
その芸人には必ず涙を模した化粧が施してある。それがこの芸人の特徴である。
突然のその質問におかしなことを聞くなぁという表情をした後、彼はふざけることなくこう答えた。
「僕はピエロになりたかったんですよ」
「えっ?」
聞き返すと、少し恥ずかしそうにしながらその芸人は続けた。
「ピエロって化粧に必ず涙の模様が描かれているでしょう?」
「確かにありますね。じゃあ、その涙はそれから?」
「そうです。その涙の模様の意味は、家族の誰かが死んでも葬儀に出れずに、それでも悲しみに耐えて笑顔で人を笑わせなければならないピエロの苦しみを表したものらしいんです」
「それで何故、ピエロに似せたスタイルを?」
「何故でしょうね。昔から人を笑わすことが好きで、笑い話も大好きで、それがいつしか芸人になりたいという気持ちに変わって、その時にピエロの話を知ったんです。芸人魂ですよね。一目惚れみたいなもんでした」
「それでお笑い芸人に?」
「ええ。ピエロとは舞台は違いますが、人を笑わすことは同じですから、ピエロのように強い心を持って人を笑わせたかったんです」
それでも、と彼は急に声のトーンを沈めた。
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