13人が本棚に入れています
本棚に追加
「それでも、お笑いの世界は広くて、自信を持って臨んだ舞台は、ことごとくスベッて、当時コンビを組んでいた相方とよく喧嘩をしていました。当時は世界を小さく思っていたんでしょうね」
その頃のことを思だしたのだろうか、少しずつ声のトーンと共に肩も落ちていく。
しばしの沈黙が続いた後、気を取り直した彼は落ちた肩を戻して言った。
「そんなときに名案が浮かんだんです」
「名案?」
「私の母をネタにしたコントを思いついたんです。母は昔から面白い人でしたから、それをモチーフにすれば、きっとウケるだろうって思ったんです」
「それが大当たりしたと?」
「そうです。面白いようにウケるんですよ。今まで冷ややかだった空気が、舞台の数をこなすうちに暖かくなっていって、気づけばお笑いの賞レース目前というところまで…目前だったんです」
目前だったんです、と小声で言ってから、あの舞台がすべてのはじまりだったんですと声のトーンを再び沈めた。
最初のコメントを投稿しよう!