ピエロ

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「母親の葬儀には?」 「結局でれませんでした。いや、でられませんでした。今の自分が情けなくて見せる顔がなかったんです」  私は返事のしようがなかった。彼の様相とは到底イメージできない生い立ちに私は言葉をなくしていた。   少ししてから芸人は思いだしたかのように言った。 「それからでしょうか。このスタイルにしたのは。涙の化粧に奇抜な衣装。はたからみれば、おかしな人ですよね。でもそれでいいんです」 「今の自分のスタイルが飽きられてもですか?」  その質問にそんなことはわかっていると言うように大きく頷いた。 「ピエロは泣くのを我慢して、その代わりに涙を模した化粧をしました。逆に私のこの涙は、いましめです。ピエロになれなかった芸人の悔し涙とあの舞台での涙。それを忘れないように笑顔で人を笑わせられるように」  今時こんなの流行ませんけどね、と彼は苦笑しながら「だから、涙はあるんです」と言った。  芸人ブームは残酷なほどに短い。奇抜な芸人であるほどある時突然いなくなる。その道を、そんな道をあえて彼は選んだ。 「今のギャグがウケなくなったら、どうするんですか?」  そう尋ねると彼は簡単そうに言った。 「そうですね、この涙を、もう片方にもつけてみましょうか」と笑ってみせた。  その笑顔は、紛れもなくピエロそのもののように私は思えた。
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