個人タクシー

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「よろしいんですか?」  不安そうに尋ねる運転手をよそに私は力強く頷いた。 「ええ、構いません」  お金はボーナスが出たばかりで余裕はあったし、少しばかりの出費は気にならなかった。何よりもこの運転手の最後の仕事をわずかワンメーターばかしで終わらせたくなかった。  お節介だろうか、と一瞬思ったが、車はゆっくりと走り出した。  私が最初告げたF木台ではなく、運転手の20年間の道へと向けて。  最初は繁華街だった。私が新入社員だった頃に歓迎をしてくれた店もあるところだ。今でもあるだろか、と思っていると運転手は優しい口調で話し始めた。 「最初に配属された場所はここでした。いろんな客を乗せましたよ。繁華街ですから、酔っ払いは当たり前で水商売の女の子、男の子、ヤクザ。いちゃもんもよくつけられたもんですよ。道をよく知らないもんですから、迷ってメーターをあげてしまって、それに怒った客が大暴れ」  運転手の話は終始柔らかく、笑いながら話す様子が勤め人としての長さが改めて感じられた。 「ああ、この店です」  そう言うと、ある居酒屋を指さした。何の変哲もないチェーン店の居酒屋だった。 「今は店は違いますが、昔も居酒屋でして、その時乗せた客がねぇ…」  言葉の後半、口ごもり始めた。 「何かあったのですか?」
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