個人タクシー

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「最初はただの酔っ払いのカップルだったんですけど、帰宅途中に彼氏の方が、彼女にプロポーズをはじめたんですよ」  苦笑まじりに運転手は話す。 「結果はどうだったんですか?」 「残念ながら…」 「そうですか」 「彼も必死だったんでしょうね。必死に言葉を選んでいました。ドラマで使うような恥ずかしい言葉も」  タクシーはゆっくりと繁華街を抜け始めて、ビジネス街へと街の様子は変わりつつあった。 「残念ですね」 「お客さんは、おいくつになるんですか?」 「24ですね」 「そうですか。あのときの彼も同じ歳だった気がします。あれから彼女は、気まずくなったんでしょう。途中で降りて、彼一人でした」 「そりゃ、そうですよね」  でも、と切り出した運転手は声のトーンがあがり「彼をまた乗せる機会があったんですよ」と懐かしそうに言った。 「ほんとですかっ!?」 「ええ。3年後ぐらいでしたか、あの出来事でしょう? 彼の顔は、よく覚えていました」 「どうなっていたんですか?」 「結婚していました。立派な商社マンになっていて、その時の話をしたら、たいそう驚かれていました」 「結婚相手はどんな方でしたか? もしやあのときの?」 「私もそう思っていたんですけどねぇ」  残念そうにしながらそのまま運転手の言葉を待った。
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