セイレーン

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揺らめく水面をそれは見つめていました。 崩れた皮膚が片目の視界を塞ぎ、骨まで露出した片目が眩しいくらいに光を受け入れ眼球を焼きます。 藻のようなべったりとした髪が、ぼろ布と成り果てた服と共に身体にへばりつきます。 膝から下を失った片足は腐り、残った片足は魚のような鱗を生やしていました。 その姿は醜悪極まりなく、磯と腐敗臭を漂わせていました。 ただ、微かに聞こえる声音だけはあまりにも美しいものでした。 人間が付けた名は『セイレーン』
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