セイレーン

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セイレーンはいつからそこにいたのか、分かりませんでした。 ただ、胸が苦しくて。 歌しか紡げなくなった唇から漏れるそれは、悲しいものばかり。 忘れないで 忘れないで 全てを失っても 貴方を忘れない この唇は 貴方を歌うから せめて、 春の残雪のように 微かでいいから 私を忘れないで… 『貴方』とは誰なのか。 セイレーンには分かりませんでした。 あまりにも長い時をセイレーンは生きていました。 本当の名を忘れてしまう程。 此処でこの姿になったことを忘れてしまう程。
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