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それは
暑がりの女と
寒がりの男の夫婦だった
二人が
どこでどうして
出会ったのかは
誰も知らない
ただ
靴がやがて
汚れてしまうように
春がいつしか
冬になるように
そうした
当然の
営みのような感じで
いつの間にか
二人は
一緒に居た
妻が
表で
生活できるのは
夏を除く
季節の早朝と深夜
それ以外の時間は
冷蔵庫に
正座をして
ひとりで
氷を齧るのだ
冷蔵庫は
ビルのように
巨大なもので
中には
赤い座布団が
ひとつと
黒い座卓が
置かれていた
妻は
少しでも
長く外へいると
一秒間に
身長が三㌢縮む
透明な水を出して
氷のように
溶けてしまうのだ
夫は
いつの季節でも
毛糸の帽子
マフラー
手袋を付けて
寒い寒いと
震えていた
どうしてか
真夏でさえ
夫の吐く息は
いつでも白いのだ
体内に
雪が
降り積もって
いるみたいに
夫は
帰宅すると
まず
ストーブを
かんかんに焚いて
その前に
しゃがんで
手や尻を炙った
異様な
光景と云えば
そうであった
夫の顔は
蒼白で
ストーブに
当たった時だけは
橙色である
二人が
顔を合わせる時は
殆ど無かった
セックスの時くらいだ
それすらも
ひっそりと
静かに
すぐ終わった
そんな或る日
夫が
何の気なしに
冷蔵庫を開けると
妻は
くの字に体を折って
体中に霜をつけて
倒れていた
あわてた夫は
うっかり
妻を外へ出して
それから
救急車を
電話で呼んだ
受話器を置いて
振り返ると
妻は
少しの水と
白濁した液体に
なってしまっていて
跡形もなく
溶けてしまっていて
真ん中に
眼球が二つ
融けずに
ゆらゆら残っていた
夫は
すこし
躊躇ってから
静かに
服を脱ぎ
全裸になって
その場に倒れ、、
ドアが
叩かれている
救急隊員が
来たのであろう
力強い音であり
切迫した音である
家じゅうに
鳴り響く
ドンドンドンは
応える者が
いないので
夫が
最期の息をつくまで
鳴りっぱなしに
なっていた、、
救急隊員の話によると
冷蔵庫の前で
全裸の男が
掌に
眼球を握りしめ
かちかちに
固まって
死んでいたそうだ
きっと
あの男は
変質者ですね
にこりとも
笑わずに
隊員は
新聞の取材に
そう答えた、
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