女子

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犬が飼いたい、と言ったのは私だ。ちゃんと面倒見るから、散歩は私がするから、と確かに言った。そうです、言いましたとも。だってそう言う以外ないじゃないですか。思わず拾ってきてしまった子犬を、あったところに戻してきなさいと怒鳴られ、どうして必死になって守らないでいられましょう? 早朝、えーえむ四時半。私はまだ真新しさの残る犬用リードを握り、子犬と歩け歩け時々走れ大会を催していた。 わんわんわん、ああはいはいお散歩うれしいね。 あくびをかみころしつつふるえながら、はしゃぐ子犬と歩く。多少は仕方ないとは思うけど、こんな朝っぱらからきゃんきゃん吠えさせていいのかな…。 ラッキー、と呼びかけてみる。それが自分のことだと理解していないらしく子犬は私を完全に無視し吠え続ける。 ――くそう…なにがラッキー(幸運)だ。 まるでラッキーが呼び寄せたかのように風が強く吹いた。ジャージを貫いて冷たい風が私の身体に突き刺さる。 「寒いんですけどぉー」ともらす私。 ワウンキュウウー、となぜかわめくラッキー。 「なによー、あんたのためにわざわざ散歩してやってんでしょー? 何か文句あるわけぇ?」 「クーン」 ラッキーが立ち止まり、振り向いて私を見上げた。くそう、かわいいぞ、お前。 朝日が空を照らしはじめた。冷たい風に乗って白光するわたぼこりが一つ、飛んでいった。
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