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「それで今日はサイコロステーキ?」
「そ。ハンバーグは次に延期だ」
晶は答えながら、小さな正立方体に刻まれたステーキをフォークで刺し、口に運ぶ。
うわ肉汁やばい。マジで美味い。さすが『やまなか』。
などと言っているかの様に、晶の表情が幸せそうに綻ぶ。
「美味しー……晶、また料理の腕を上げたか?」
晶と同じ様に一口大のステーキを頬張り、満面の笑みを浮かべる女性。
彼女の名は南神 晴香(ながみ はるか)。
説明すると、長く艶やかな黒髪と整った顔を持ち、近所では美人と評判の晶の姉である。
「そう思う!?そう思う!?」
その言葉に過剰な反応を示した晶は食卓の上で前のめりになる。
「ああ、もちろんだとも、我が弟よ」
危うく晶の腹に押し潰されそうになった夕食達を、晴香は穏やかな表情で瞬時に避難させた。
晶の方はいつもの事だからか、特に自分の行為に気を留めず、ただ晴香の好評価に喜んで笑った。
「いやはや、羨ましいものだよ晶。女のあたしよりも家事ができるなんて。ホントはお前、女じゃないの?」
それを言うと晶は笑顔を引っ込め、代わりにあからさまな呆れ顔を浮かべた。
「いやいや、何でそうなるんだよ」
「だっておかしいだろう。普通、男は料理なんて雑なモノしか出来ないもんだぞ?」
「それは偏見と言うものですよ、お姉さん」
敢えて敬語を使って晶はまたサイコロステーキにフォークをぷすり。
口に入れると途端に"生きてるって最高!"とでも言いたげな表情になる。
晴香はその様子を見て思わず笑った。
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