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「―――――あ、そうだ」
不意に姉はフォークを止め、思い出した様に声を上げた。
「ん?」
晶もまたそれに反応して口に運びかけたステーキを止める。
「明日、ちょっと帰るの遅くなるからな。適当に夕食は済ませといて」
「何かあるのか?」
「見回りだよ見回り。最近この辺り物騒だろう?」
晶はなるほど、と頷いて手槌を打った。
「今もニュースでやってるだろ。つけてみ、晶」
素直に姉に従って晶はテレビの電源をつけに行く。
テレビの側で屈んで電源ボタンを押すと、一瞬光って画面が映し出された。
「……あーホントだ。やってるやってる」
―――本日未明、桜坂市の路地裏で二十歳前後の女性と見られる遺体が発見されました――――
「これで七人目」
ニュースキャスターが緊迫した様子で事件を伝える姿を、晴香はぼんやりと見て呟く。
―――遺体は一連の事件と同じ様に、胸部から腹部にかけて切り開かれており、内蔵を抜き取られているとのことで、皆、同じ犯人によるものと見通しがされています。
また、遺体の損傷があまりにも激しいことから、密輸された野生の猛獣ではないかとの見方も――――
「……また同じこと言ってる」
晶はテレビが吐き出す言葉に対して、さも不満げに愚痴を溢した。
「犯人が猛獣だったらもうとっくに捕まってる。こんな長い間隠れていられる訳ないだろ」
―――桜坂市にお住まいの方々は、家にいる間は必ず自宅の鍵を全て掛け、しっかりと戸締まりをして下さい。外出をする際は出来る限り速やかに用を済ませ―――
プツ。
と糸が切れた様な音を立て、テレビの画面は切り替わった。
人々を笑わせる為のバラエティ番組が映り、和やかな笑い声が部屋を流れる。
晶が振り向くと、リモコンをテレビに向ける晴香の姿があった。
「猛獣であろーがなかろーが、放っておけるものじゃないんだから同じこと」
晴香は目を伏せ、長くたおやかな黒髪を掻き上げて言う。
「結局は……あたし達、警察がなんとかするしかない」
そして食べ終わった食器を重ね始めた。
そのゆっくりとした手つきから若干疲れが見える。
「……けどさ、犯人見つかってないんだろ?」
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