1.日常

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 訊く晶。  晴香は静かに頷いた。 「……ああ」 「手掛かりもないんだろ?」 「ああ」 「どうするんだよ」 「どうするもこうするもない。やれるだけのこと、やるだけさ」  言って晴香は席を立ち、重ねた食器を洗い場に持って行く。 「あ、皿洗い、俺やるよ。置いといて」  晶が言うと晴香は首を横に振り、皿を洗い場に置いて服の袖を捲り上げた。 「何を言ってる。たまには弟の手伝いしなきゃ、父さんと母さんに怒られるだろ。この間も夢に出てきたんだから」  そう言って晴香は、障子を挟んで奥の部屋にある仏壇を指差した。  そこにあったのは二つの写真。それは仲の良さを表すかのように隣同士で立てられていた。  それに一度目を向けた後、怪訝そうに晶は呟く。 「夢にって……何だよそれ」 「いいから。とにかく今日はあたしに任せて、お前は先に風呂でも入ってろ」  しっしっと払い除ける様に手を振る晴香。  姉はしつこいのが大嫌い、ということを晶はよく知っているので、それ以上食い下がることなく、仕方無しにその言葉に甘えることにした。 「はいはい……」       *  *  チャポン。  そんな水の弾ける音が浴室に響く。 「ああ゛ーーーーー……」  ほんわりと湯気に満たされた浴室で湯槽に浸かり、晶は低い声を出す。  はっきり言うとオッサン臭い。  数分間、晶は体を温めながら幸せそうに微笑む。天国にいるかのように。  そんな時だった。 「……ん?」  晶は何かに気付いた。  右腕を湯槽に張ったお湯から出してまじまじと見る。 「何だこれ?」  そう晶が疑問を持ったのは、自分の右腕に真っ直ぐ縦一閃に刻まれた傷跡。  否、傷と言うよりも模様―――タトゥーに近い。  綺麗な直線を描いているが、晶には身に覚えのない痕だった。 「いつこんな痕が付いたんだ?」  首を傾げながらそれを指でなぞり、唸る。  触っても全然痛くない。普通の傷のような手触りもない。  幻なのでは、とさえ思ってしまう。  晶は暫くそれを見つめた後、まぁいいか、と思考を振り払って湯槽から出、浴室の外にあるバスタオルに手を伸ばした。
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