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それは平穏。
平凡な生活を過ごす者が持つ最高の幸せ。
―――しかし、その者が、その事実に気付く事は無い。
幸せは、持つ時間が長ければ長いほど、幸せと感じなくなるからだ。
産まれた瞬間から平穏を手にしてしまった人間は、それを幸せと感じない。感じられない。
余りにも長い時間持ち続けてしまった幸だから。
大切なものは、失って初めて、大切なものだったのだと、人は気付く。
故に人は愚か。
失わなければ分からない愚物。
彼もまた、失った時に知った。
この世に平穏ほど幸福なものはない、と。
そう。
だから〝今の彼〟は望んではいない筈だった。
その声を。
――――――〝目覚めろ〟。
平凡な日々に飽きた人間達が求める、その声を。
それは平穏を崩す鍵。
幸せを砕く斧。
平和を乱す麻薬――――――。
――――――目覚めろ、我が主。
――――――我が名を思い出せ。
――――――我が名を…………我が名を…………。
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