1.日常

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 それは平穏。  平凡な生活を過ごす者が持つ最高の幸せ。  ―――しかし、その者が、その事実に気付く事は無い。  幸せは、持つ時間が長ければ長いほど、幸せと感じなくなるからだ。  産まれた瞬間から平穏を手にしてしまった人間は、それを幸せと感じない。感じられない。  余りにも長い時間持ち続けてしまった幸だから。  大切なものは、失って初めて、大切なものだったのだと、人は気付く。  故に人は愚か。  失わなければ分からない愚物。  彼もまた、失った時に知った。  この世に平穏ほど幸福なものはない、と。  そう。  だから〝今の彼〟は望んではいない筈だった。  その声を。  ――――――〝目覚めろ〟。  平凡な日々に飽きた人間達が求める、その声を。  それは平穏を崩す鍵。  幸せを砕く斧。  平和を乱す麻薬――――――。  ――――――目覚めろ、我が主。  ――――――我が名を思い出せ。  ――――――我が名を…………我が名を…………。
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