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――――暗闇の中を走る。
軋む廊下。揺れる硝子窓。震える戸。上下する床。
木造の古びた旧校舎は、長年放置されていた所為であちこちが老逐化している。もちろん電気は通ってないし、だからこそ暗闇の中を疾駆しているのだ。
ここに幽霊が出るなんて噂は当然、ある。
とは言えど、音楽室からピアノの音が聴こえてくるとか、女子トイレに半透明の女の子が立っていたとか、人体模型が歩いていたとか、美術室の絵が動いたとか。誰もが一度は聞いたことがあるような、とてもポピュラーなものばかりだが。
そんな肝試しには持ってこいの場所で、彼は全力疾走をしていた。
着ている服はボロボロで、身体は切り傷だらけ、滲んだ血が服を更に汚している。
だが、今の彼にそんな事を気にする余裕はなかった。
――――はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!
激しく息を切らしながらもただ走り続ける。足は重い。身体は辛い。
そんな状態でありながらも尚走るには、理由があった。
それは、とても当たり前で、とても原始的な理由。
恐怖の対象から、逃げるため。
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