ハジマリ

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こぽり、と息が口から零れる。 私は身体中を包む不快な浮遊感に微かに眉をひそめ、少しだけ瞳を開いた。 そこは、暗闇が支配する何もない空間。無の空間。 幼い頃から慣れ親しんだこの空間だが、私は未だに好きにはなれないでいた。 「気持ち悪い…」 私は嫌悪感を隠すことなく、吐き捨てるように呟く。 この空間は私の夢の中だ。規則性なんかはなく、私の意識の中に浮かび上がり、また沈んでいく。だけど、最近は以前より頻繁にここに来ている気がした。そう、多分それは気のせいじゃなくて真実なんだろう。 (そう嫌そうな顔しないでよ。ボク、悲しいじゃないか) くすくす、と笑い声が響いた。その声は反響するように、私に話しかける。 その声の主は姿をみせることなく、声だけが辺りに広がった。 「うるさい。何の用?」 (くすくす……恐いなぁ。君も既に感ずいているんじゃないの?) 私はその言葉に唇を噛んだ。 声は楽しそうにコロコロと笑う。 「セカイが不安定になっていること?」 (大正解だよ。さっすが) この町で膨大な魔力が動いているのは言われる前から既に解っていた。その魔力がセカイを不安定にしていることも。 「それで?私は何をすればいいの」 私は心に渦巻き、混ざり会う不快感と苛立ちに軽い吐き気を感じながら、声が震えないように力を込めて呟いた。 (今回はなにもしなくていいよ。ただ、魔力の動きを監視してくれればいい) 「ふぅん……。それで、邪魔になり次第、潰す」 (その通りさ。解っているじゃん) 私はその言葉を鼻で笑い飛ばす。なにを今さら。私は今までもこうして生きてきた。私にはこれしか生きる方法が無いのだから。 「大丈夫。失敗はない。私は私のやるべきことをやるだけ」 大きく一度、息を吸って吐く。迷っている時間はない。 (頼んだよ。ボクの■■■) そんな声を聞いて、私の意識はまた、現実へと浮かんでいった。
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