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「それ」は、そこにいた。   いつからいたのかは分からないが、「それ」はいつの間にかそこにいた。   「それ」は、意志と呼べるものを持っているようだった。しかし長い間、それは自分の持つ意志を働かせたようには見えなかった。   そんなある時、突然の来訪者により「それ」は意識を覚醒せざるを得なくなる。   その来訪者とは銀色に光る球だった。球は秒速8キロメートルの速度で「それ」に飛び込んできた。   とっさに身を翻す「それ」。 しかしそんな自分に疑問と言う意志を働かせる。 『ぼくは何故避けたんだ?』   「それ」はそんな意識を働かせた原因となった銀色の球に興味が湧いた。 「それ」は銀色の球へ近づき、中を覗き見る。そこには一頭の犬がいた。   犬は酷く興奮しているようだった。「それ」は暫く前から眼下の青い星に炭素を主成分とする化合物が発生し、複雑化し増殖していく様子を見ていた。それらを生物と分類する事も眼下から発せられる電波によって知っていたし、今目の前にいる生物が犬と言う動物である事も知っていた。   そしてこの犬はもうじき活動を停止する事も、「それ」は知っていた。球内の温度が摂氏70度を超えていたからだ。   犬は死んだ。   しかし最後の犬から発せられた強烈な意識に「それは」興味をそそられた。何故だかはわからない。   「それ」は犬ごと銀色の球を覆い満たし、一つの思考物となった。今までに得た知識で物には名前を付ける決まりがある事を知っていた。「それ」は気紛れに、自分自身に「銀」と名付けた。   銀は、体を持った事で疑問が生まれた。 『何故、ぼくは居るのだろう』 眼下の生物は、自分の星の外に想いをはせ、根源を探ろうとしている。もしかしたら宇宙の果てにぼくの疑問を満たせる答えがあるかも知れない。   銀はおもむろにその場を離れ、宇宙の果て目指して動きだした。
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