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「水でも飲みますか」と僕は云った。
「いや結構」
「マヨネーズはどうですか」
「いや結構」
「あのお」
「何でしょう」
「お宅、だれ?」
わたしはダルマですと青い目の達磨は言った。
彼はなにひとつ間違っていない。
ただひとつ、ダルマが喋るということを除いて。
「ひとつ聞いていいかな」
僕は訊ねた。
「一週間前に彼女が出てって帰ってこないんだ」
ほうとダルマは云う。
「彼女は部屋の鍵を持っている。だから君はひょっとして彼女が置いていったんじゃないだろうかと考えているんだ。どうだろう、知ってるなら彼女がどこにいるか教えてくれないか」
「残念ながら、拙者はそなたの想い人は知らぬ故」
「彼女とやり直したいんだ」
僕はマヨネーズを流しこむ。
「彼女がいないと胸に穴が空いたみたいで苦しい、苦しくて苦しくてたまらないんだ。こんなにも彼女のことが好きだなんて今になって気付くんだ」
そう一一
だから僕は眠れない。
なぜ一一彼女は出て行ってしまったんだろう。
僕がマヨネーズを飲んでしまうからだろうか。
理由なんてあるかしら?
そういうものなのよ。
きっとね。
「申し訳ないが」
と云いダルマはドアをちらりと見やる。ドアを開けてくれという意味をこめて。
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