出会い

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「まずい遅刻だ!」 僕は公園を抜け近道しようと、道路に飛び出した。 六車線もある大きな道路だったが、遅刻には代えられない。 一目散に道路を駆けた。 反対車線にさしかかったとき、突然、クラクションが鳴った。 大型トラックが突っ込んでくるのがわかった。 全身に衝撃が走る。 しまった! キイィッとブレーキ音が響く。 トラックは僕の鼻先で停まった。 「バカヤロッ」 パンチパーマの運転手が怒鳴った。 運転手はトラックをおりると、殺人犯のような顔で迫ってきた。 「死にてえのか!」 あまりの迫力に震えあがる。 薄っすら涙がこみ上げた。 「テメェ、どういうつもりだ」 どうしよう? なんて云えばいい? 必死に言い訳を考える。 「聞いてんのか、コラァ」 思わず顔をそむけた。 公園を通りかかった女の子と目があう。 その時、突如ひらめいた。 僕は恐る恐る右手をあげると、 「僕は死にません、あなたのことが好きだから僕は死にましぇん!」 声をふり絞って叫んだ。 女の子は手で口を覆い、びっくりした様子で僕をみつめていた。 あれから五年── 僕は彼女と結婚した。 最近よく思うことがある。 それは、人の出会いはわからないということだ。 了
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