301人が本棚に入れています
本棚に追加
何かにつけて自分の息子は優し過ぎるのではないか一一、とライオンは気にかけていた。
ある日、子供ライオンが父親に尋ねた。
「お父さんのタテガミは何でふさふさなの?」
「坊主、いいことに気がついた。このタテガミはサバンナにおける絶対的強者を示す王冠なのだ。我々ライオンは常に百獣の王たらねばならぬ。ふはははっ」
「じゃあ、お父さんの牙はなんでそんなにとがってるのぉ?」
「捕まえた獲物にトドメを刺すためだ。ふははっ」
「じゃあ、その爪は?」
「これは獲物を逃がさないよう力ずくで抑えるためだ。なかには活きのいいインパラがいるからな」
「じゃあその脚はなんでそんなに太いの?」
「獲物を追いかけるためだ。サバンナを駆け回るためには強靭な足腰が必要なのだ、わかったか?」
「でも…」
子供ライオンはどんぐり眼で父親をみつめる。
「どうした坊主、云いたいことがあるなら云ってみろ」
「ううん、やっぱいい」
「気を使うな、云いたいことははっきり云えッ」
「あのさ」
子供ライオンは云った。
「牙とか爪とか脚とかって必要かなぁ」
父親はあたりを見渡すと悲しげな眼をした。それから、やれやれと首を横に振った。
子供ライオンがまじまじと見つめる。
「だって、ここ動物園だよ」
《了》
最初のコメントを投稿しよう!