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ーーーエミリアは無我夢中で走っていた。
今までにないほどに心臓がバクバクと鳴り響くのが分かる。
これはただ単に息切れを起こしているからというだけではなかった。
この時のエミリアには先程まで頭を占めていたサファイアの事よりも、自分の命。
一刻も早くあの場から離れなくてはという本能だった。
初めて自分の命が危険に晒された恐怖が、今になってエミリアを支配していたのであるーーー。
見つかりにくいであろう路地裏に逃げ込んだエミリアだったが、石畳の隙間に躓いて派手に転んでしまう。
その拍子に、手にしたままの透明な箱からサファイアが飛び出した。
「いったぁ……」
転倒した事で少しだけ冷静さを取り戻したエミリアは、ゆっくりとその青い宝石を拾い上げる。
これを巡ってあの2人は戦っていた。
確かに美しい石ではある、しかし市場に出回るサファイアよりもやや大きい事くらいで、エミリアには他のそれとは大差ないように思えた。
(そんなに大切なものなのかしら…)
ーーーすると次の瞬間、サファイアが眩しく光を放ち出すーーー
「なっ…何よこれっ……!」
目を開けていられないほど輝く光の海の中で、エミリアの意識は徐々に遠退いていったーーー。
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