22人が本棚に入れています
本棚に追加
「気に入ってくれたみたいで、よかったわ」
ルージュがひかれた口元がきゅっとつりあがり、黒いサングラスで隠れた目元が優しくなったのが気配でわかった。
……見た目のインパクトはキツイけれど、本当はいい人なのかもしれない。
「おかわり」
そんなことを考えていると、隣から静かに次のケーキを要求する声が聞こえた。
見ると、ケーキは皿の上に欠片も存在していない。
私はまだ一口しか食べてないのだが……いくら好物であっても食べるのがはやすぎないか。
「食べ過ぎると、太るわよ」
呆れたように言いながら、ケーキを切るキャサリン。
「食べた分は、運動して消費するから大丈夫だ」
彼は紅茶を飲みながらしれっと言い、ケーキがのせられた皿を引き寄せる。
するとこちらの視線に気づいたのか、彼は私の顔と皿を交互に見て言った。
「食べないなら、貰うぞ」
それが親切心からの言葉か、ただ単純に食べたいだけかは分からない。
だが、彼の瞳に本気の色を感じた私は、慌てて自分の皿と向き合い、食べるのを再開した。
「そんなに慌てて食べなくても大丈夫よ、ルナちゃん。ケーキはまだあるから」
そういう意味ではないのだが、ここは素直にお言葉に甘えさせてもらうとしよう。
口の中にひろがる心地よい甘味が、癖になりそうだ。
「おかわり」
驚いて彼の皿を見ると、またもやケーキの姿はなかった。
ちなみに、私のケーキはやっと今半分まできたところである。
皿の上に小規模なブラックホールでも発生しているのだろうか。
「……少しは自粛しなさい」
溜息をつきながらキャサリンにそういわれ、(表情は変わらないが)しゅんとするレオン。
どっかの師匠とはちがって可愛げがあるので、思わず同情してしまう。
「私は全然構わないので、もう一つ差し上げてください」
「あら、そう? ……なら、もう一個だけね」
最初のコメントを投稿しよう!