00 無職の師匠と私

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「しかも、どうして、よりによって、いっぱい稼いできた時に」  私は家が“あった”場所を指し示す。 「全壊させてんだ」  木造の為か、勢い良く燃え上がっている家“だった”もの。 柱が折れ、屋根が落ち、壁は跡形もなく崩壊している。 町外れに存在し、燃え移るようなものが周りなかったから良かったものの…… こんな所に、もう住める訳がない。 「ごっ、ごっ、ごめんなさい!」  私が本気で怒っていることを漸く理解したのか、頭を地面にこすりつけて謝る彼。 確かこれは、東洋の謝罪方法【土下座】というものだ。本で見たことがある。  必死で許し請う彼から、少し視線を移す。 そこには発明に関するものと思われる大量の書類と、銀色の袋があった。 袋の中には、通帳や食料、衣類など生活に最低限必要なものが入っている。 地震や火事などの災害用にまとめたものだが、まさかこんなことに使うとは思わなかった。 「もう限界です。師匠、貴方も働いて下さい」 「え、いや、無理無理! どこも私を雇ってくれないんだもの」  顔を上げて拒否する師匠を、踏みつけてやりたくなるがなんとか抑える。 「そりゃあ、本名を名乗らない奴が、職に就けるわけがないでしょうね」  この男は自分の名前に相当コンプレックスを抱いているのか、人にはけして名前を明かさない。 弟子であるはずの私ですら、知らないのだ。
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