00 無職の師匠と私

5/5
前へ
/34ページ
次へ
   予想外の言葉に思わず聞き返すと、師匠は笑顔で頷いた。 「でも、学費も、住む場所もないですし」 「学費はグランが全部払ってくれるって。学校は全寮制だから住む場所もあるよ」  話が上手すぎるが、グランさんが嘘をつくとは到底思えない。 何度か会ったことがあるが、怖そうな見た目に反してとても優しい人だったと記憶している。 「……断る理由が見つかりませんね」  丁度、本格的に魔術を習ったり、使い魔や武器を呼び出してみたいと思っていた所だ。 仕事をせずに、学問に集中出来る環境が得られるのは嬉しい。 「うん、それじゃあ決まりだねっ」  師匠は胸ポケットからペンを取り、封筒に何かをさらさらっと書いた。それに軽く息を吹きかけると、封筒が消える。 「今から行くって送っておいた。さ、行こうか」  彼にしては、珍しく段取りが良いと感心する。 もしかして、師匠はこうなることを予想して、わざと家を――いや、流石にそれはないか。 「ところで、何を作っていて爆発したんですか?」  変な考えを振り払うように、地面に這いつくばるようにして移動呪文を書く師匠に質問する。 すると彼は、笑顔のまま言った。 「掃除機だよ」  掃除機に爆発する要素があるのか、っていうか掃除機くらい家にあっただろうとか、ツッコミは山ほど思いつく。  だがとりあえず、私は師匠のそのふざけた笑顔を踏みつけることで、私の言葉にし難い思いを全て伝えた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加