狼青年の虚実

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 喫茶店。店の奥。壁際の席。一人。  2、3ヶ月前に、物静かに佇むこの喫茶店を見つけた。一人で過ごすことが好きな僕は、仕事が休みの日に度々訪れていた。  人気店がひしめき合う商店街や大通りから外れて、どこの街にもあるような、何気なく、味気ない通りに、ポツンと、さり気なく建っている。  喫茶店の玄関を開くと左手のカウンター席が店の奥に続いている。レジ横の本棚には、雑誌や古いコミックが置いてある。右手にはテーブル席。二人用の長方形のテーブルを組み合わせ、四人掛けにしてあり、人数に合わせ、いつでも組み替えられようにしている。壁の柱時計がカチカチと時を刻む音と、微かに流れる音楽が店内を満たす。照明は少し薄暗く、オレンジの玉がぽうっと浮かんでいる。  そして静寂。一度足を踏み入れれば、世間から切り離された気にさえなる静けさだ。  静寂と言っても、何も聞こえないという意味では語弊があるだろう。実際は小さい音ながら音楽も流れているわけだから。僕なりに言わしてもらえるなら、沈黙の音というか。人生の休符というか。この喫茶店独特の空気や雰囲気が疲労した精神を休息に導いてくれるようだった。  
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