狼青年の虚実

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さすがに誇張し過ぎた。簡単に、マイナスイオンの出る森の中でリラックスしているようなと、例えれば一番しっくりくるだろうか。  とにかく、僕はそんな雰囲気に惹かれ、今日までここに通ってきた。この店の雰囲気が好きだった……。  だったと言うのは、今の状況から、これまでに抱いていた思いを感じることが到底無理だからである。  外の寒さと相まってか、今日は客が多い。席がほとんど埋まっていて、人が座っていないテーブルがない。客足は途切れることを知らず、代わる代わる女性客が訪れている。  人気店のように何十人、何百人もが来店したわけではないのだが、決して広くない店内を満たすには充分な人数が来店している。  いつもの常連がカウンターに僅かにいるだけで、残りの席は一見の女性客が占めていた。  こんな日は僕がここに通い始めてから今までで一度もなかった。  マスターに聞いたところによると、テレビでとある喫茶店が紹介されたらしい。  最近ブレイクした若手俳優がその喫茶店の常連であり、トーク番組で紹介した。すると放送日の数日後から女性客が増えだしたということだ。
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