狼青年の虚実

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 客が増えることは、こちらとしても喜ばしいことだが、やはり、この店の静かな雰囲気に、惹かれていた自分としては、複雑な心境である。  大体、好きな俳優が居た喫茶店に行って、女性客はどういうつもりなのだろうか。わざわざ足を運んで何だというのだろうか。その若手俳優が常連だからといって、その店に行けば必ずしも会えるわけではない。それどころか、ファンがいることで、その俳優も足を運べなくなるのではないのか。  いや、それについては自分には関係のないことか……。そう思い、今の状況について考えるのはやめることにした。  だが、思考を止めてしまうと、自分の意思に関わらず、聞き耳を立ててしまって、隣の席に座っている女性客の会話が耳に入ってきてしまう。女性の話を盗み聞くのは、さすがに申し訳なく思う。  どうしようか悩んだ挙げ句、僕は雑誌やらコミックが置いてある本棚から適当に週刊誌と新聞を取ってきた。意識を別の物に向けようという魂胆だ。  コーヒーのおかわりを頼み、持ってきた週刊誌をテーブルに置いて、新聞紙を広げる。  まただ……。  あの事件が一面を飾っていた。
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