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思考に耽っていると、視界の隅からこちらへ向かってくる人影が見えた。新聞から意識を外し、それとなく窺っていると、僕のテーブルの傍に来て、すみませんと声を掛けてきた。
声の主は、この喫茶店に勤めてるただ一人ウエイトレスだ。しかし、ここに勤めているのは彼女とマスターだけであり、彼女ただ一人だからといって、紅一点というわけではない。常連客には女性もいるし、今日に至っては、テレビの影響でたくさんの女性客も訪れている。
僕は新聞に落としていた視線を彼女の方に向け、返事をした。
「はい。なんでしょうか」
「まことに申し訳ありませんが、あちらのお客様と相席させて頂いても構いませんか?」
彼女は丁寧にピンと張った指先を玄関の方へ向けた。そこには一人の男が立っていた。
店内を見回すと物の見事に女性客だらけ、男性客はいつの間にか僕一人となっていたようだ。カウンター席も埋まっているとなると致し方ない。
「構いませんよ」
「すみません。いつも来てくださってるのに、ご迷惑をおかけして。次の来店時には一杯サービスさせて頂きますね」
彼女はそう言うと、その男の方へ駆け寄っていった。
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