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「どうしたんですか?」
佐久間の受け答えに疑問を抱いた若葉は不思議そうな顔で尋ねる。
「実は欧介、数学を諦めて帰ってくるかもしれないんだ」
「おい粕屋」
言いづらそうにしていた佐久間を差し置いて、粕屋が割って入った。
「え?本当なんですか?」
驚きを隠せない若葉。仕方ないといった表情で佐久間が続ける。
「実は先週、欧介から手紙が届いて。詳しいことはわからないが、あいつが帰ってきてしまう前にこっちから会いに行ってやろうと思って」
「そうなんですか…」
若葉の表情が曇る。
「まあ、そろそろ行ってきます。大丈夫、欧介を帰ってこさせはしませんよ。では」
最後に佐久間は力強く笑ってみせた。若葉も安堵の笑みを見せるが、やはり長くは続かなかった。
「欧介さん…」
晴れ渡る空にニューヨーク便が轟音と共に飛び立っていく。
若葉は小さくなっていくそれをずっと見つめていた。
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