第1話

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「粕屋さん、着きましたよ」 寝ていた粕屋を花房がゆすり起こす。 「おい粕屋、早く起きろ」 佐久間もそれに加わる。 粕屋は眠気眼を擦りながら気だるそうに起き上がった。大きなあくびと背伸びを同時にしてみせると、急に引き締まった表情を作った。 「ようやく着いたか~!よし、待ってろ欧介~!」 そう叫ぶと粕屋は佐久間と花房を置き去りにして歩いて行った。二人は慌てて後を追う。 「粕屋さん、何か嬉しそうですね」 粕屋に聞こえないように花房が佐久間に話しかける。 「そうだな。一緒に飲める相手がいなかったからな」 少しにやけた表情で佐久間が返した。 空港を出た三人の前にニューヨークの街が広がった。 「おぉ…」 三人は同時に感嘆の声を漏らす。 「感心している場合じゃないな。早く欧介のところに行かないと」 「そうですね」 佐久間が制し、花房も後に続く。 「おい粕屋、置いて行くぞ」 いつまでも街並みに気を取られていた粕屋を尻目に、佐久間と花房はタクシー乗り場の方へ向かった。 走って追いかけてきた粕屋も無事タクシーに乗り込み、佐久間が流暢な英語で運転手に行き先を告げる。 「ペラペラじゃないか」 粕屋が驚いた表情を浮かべる。 「そこまでじゃないさ。お前の彼女の方がペラペラだろ」 佐久間がそう言うと急に粕屋の表情が曇ってしまった。 「粕屋…?」 粕屋は何の反応もない。 「どうしたんだよお前、まさか…」 問い詰めようとする佐久間を花房が引き寄せた。 「昨日なみちゃんとケンカしたらしいですよ。結構深刻らしいです」 花房が小声で囁くと佐久間は納得したという表情を見せた。そして二度ほど咳払いをし、場を取り繕おうを話題を探す。 「欧介、元気だといいなぁ。なあ!ハハハ」 花房の背中をドンと叩き、気丈に振る舞ってみせるも、粕屋の表情は一切変わることはなかった。 やがて欧介と桜子の暮らすアパートへと到着した。 呼び鈴を押し、扉が開くのを待つ。 中から出てきたのは桜子であった。 「皆さん!」 目を丸くし、右手で口を覆う。驚いたとき、衝動的にしてしまう動作だ。 「ど、どうされたんですか?」 事態を飲み込めず困惑する桜子。 「お久しぶりですね。実は欧介に用があって来たんですよ。今はこちらにいませんか?」 佐久間が問いかける。 「え、あ、はい。今は大学の方に…」
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