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「そうか…」
「急だったんでビックリしました。わざわざ欧介に会いに来て下さったんですか?ありがとうございます」
落ち着きを取り戻した桜子は、先ほどの驚いた表情とは一変、完璧な笑顔を作ってみせた。合コンの女王と呼ばれていた頃と何一つ変わらぬ笑みだ。
「もうすぐ帰って来ると思いますので、どうぞこちらでお待ちになって下さい」
「あぁ…、すみませんね。では失礼します」
桜子に案内された席に三人は恭々しく座る。佐久間の家にあるソファーのような立派なものではないが、それなりに贅のあるソファーだ。
桜子にコーヒーを出され、三人は慎ましく受け取る。桜子の嬉しそうな表情とはまるで正反対の、浮かない表情だった。
「どうか、されたんですか?」
三人の表情に疑問を抱いた桜子が尋ねる。佐久間は不思議そうな顔で返した。
「え、だって、欧介は…」
「ただいま~」
佐久間が口を開いた瞬間、懐かしい声が聞こえた。欧介だ。
「おかえりなさい」
笑顔で迎えた桜子の向かいに、懐かしい顔ぶれが揃っている。
「あ、みんな、どうしたんだよ」
「皆さん会いに来て下さったのよ」
桜子が笑顔で返すも、欧介はどこか焦っている。
「佐久間、ちょっと」
欧介は佐久間を別室に呼ぶと皆に聞こえないよう小声で話し始めた。
「手紙、読んだの?」
「だから来たんじゃないか」
「来るなら来るって言っといてよ」
「言ったらどうせ来るなって言うだろ」
佐久間は含み笑いを浮かべる。欧介はため息だけでそれに応える。
「ちょっと、場所変えようよ」
「何でだよ、桜子さんもいるしちょうどいいじゃないか」
「だからまずいんだよ」
「ん?どういうことだ?」
「彼女、知らないんだよ」
「何?言ってないのか?」
「言えるわけないよ~。とにかく、続きはまた後で」
二人は桜子たちのいる部屋に戻り、欧介は桜子に少し出かけてくる旨を伝えた。佐久間も粕屋と花房に、早く行くぞ、と告げる。
「何を話してたんだ?」
粕屋が腕組みしながら尋ねる。
「後で話すから」
欧介は早く出て行こうとするが、粕屋は納得していない様子だった。人一倍欧介のことを慕っていた粕屋だ。佐久間にだけ話していたのを少し嫉妬したのかもしれない。
「本当に久しぶりですものね。男の人たちだけで話したいこともたくさんあるでしょう。いってらっしゃい」
桜子は笑顔で欧介たちを見送った。
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